A murderer is comin’ to ・・・
2001年12月6日○×商事株式会社正面玄関受付
受付嬢A「あら、かわったお客様だわ!!」
受付嬢B「ばかね、あれは殺人鬼よ」
殺人鬼(受付に対して)「ウガー!!」
受付嬢B「アポイントはおとりでしょうか?」
同社総務部
電話 「トゥルルルルル」
社員A「大変だ。殺人鬼がアポイントなしでやってきたぞ!!」
社員B「なにィ!!」
社員B「だいたい殺人鬼がアポなんかとるか!!」
社員A「そうか! そうだった!!」
社員B「それでどうしたんだ」
社員A「今、第2応接でお待ちいただいてる」
社員B「飲み物はお出ししたか?」
社員A「あたたかいものか冷たいものがいいのか!?」
課長 「おいおい、何をさわいでいるんだ」
社員AB「あっ、課長」
社員A「殺人鬼がアポなしでいらっしゃったので
さしあたって応接にお通ししましたが」
社員B「ご用の向きもわからずお飲物も何が
お好きやら…………」
課長 「殺人鬼の用向きは人殺しに決まってるじゃないか!!」
社員AB「え〜〜〜〜〜!!」
同社応接室
殺人鬼「…………………………」
社員A「そりゃ困ったなあ。課長、ひとつ殺人鬼に
お引き取りいただいて下さいよ」
課長 「わしに応対しろというのか!!!
お客様が課長ならこちらも課長
お客様が部長ならこちらも部長で
応対するのが礼儀というものだ
その殺人鬼は課長か!?」
社員B「え!?殺人鬼にも課長とか部長とかあるんですか?」
社員A「名刺だ!名刺があれば殺人鬼の役職がわかる!!」
同社応接室
殺人鬼「…………………………」
社員B「しかし殺人鬼が名刺をもっているだろうか………」
社員A「う〜む」
社内放送「ピンポンピョロリ〜ン」
社員A「あっPM5:00だ!!」
同社通用口
「どやどや」「わいわい」
「帰りに一杯どお?」「今日さー変なお客がいてさー」
暗くなった同社応接室
殺人鬼「…………………………」
案外 まじめな殺人鬼であった。
受付嬢A「あら、かわったお客様だわ!!」
受付嬢B「ばかね、あれは殺人鬼よ」
殺人鬼(受付に対して)「ウガー!!」
受付嬢B「アポイントはおとりでしょうか?」
同社総務部
電話 「トゥルルルルル」
社員A「大変だ。殺人鬼がアポイントなしでやってきたぞ!!」
社員B「なにィ!!」
社員B「だいたい殺人鬼がアポなんかとるか!!」
社員A「そうか! そうだった!!」
社員B「それでどうしたんだ」
社員A「今、第2応接でお待ちいただいてる」
社員B「飲み物はお出ししたか?」
社員A「あたたかいものか冷たいものがいいのか!?」
課長 「おいおい、何をさわいでいるんだ」
社員AB「あっ、課長」
社員A「殺人鬼がアポなしでいらっしゃったので
さしあたって応接にお通ししましたが」
社員B「ご用の向きもわからずお飲物も何が
お好きやら…………」
課長 「殺人鬼の用向きは人殺しに決まってるじゃないか!!」
社員AB「え〜〜〜〜〜!!」
同社応接室
殺人鬼「…………………………」
社員A「そりゃ困ったなあ。課長、ひとつ殺人鬼に
お引き取りいただいて下さいよ」
課長 「わしに応対しろというのか!!!
お客様が課長ならこちらも課長
お客様が部長ならこちらも部長で
応対するのが礼儀というものだ
その殺人鬼は課長か!?」
社員B「え!?殺人鬼にも課長とか部長とかあるんですか?」
社員A「名刺だ!名刺があれば殺人鬼の役職がわかる!!」
同社応接室
殺人鬼「…………………………」
社員B「しかし殺人鬼が名刺をもっているだろうか………」
社員A「う〜む」
社内放送「ピンポンピョロリ〜ン」
社員A「あっPM5:00だ!!」
同社通用口
「どやどや」「わいわい」
「帰りに一杯どお?」「今日さー変なお客がいてさー」
暗くなった同社応接室
殺人鬼「…………………………」
案外 まじめな殺人鬼であった。
笑って 笑って
2001年12月5日そうやってはおまえらは
人を笑って笑って
弱いものをみつけては笑って笑って
大切なものも
くだらないものも
いっしょくたに笑って
やがては自分を笑うしかなくなり
そしてついには
笑うものなどなくなってしまう……
人を笑って笑って
弱いものをみつけては笑って笑って
大切なものも
くだらないものも
いっしょくたに笑って
やがては自分を笑うしかなくなり
そしてついには
笑うものなどなくなってしまう……
back to back
2001年12月4日あのさ…
また誰かがワインをこぼすtable
甘く薫る煙り
何度も馬鹿つみかさねたから
もうひとつくらいはいい
back to back
臆病なくせに un deux troi
無茶をする訳は
恥ずかしがりやでシャイ
そんな自分が嫌だってこと
夜中のコーヒーを濃いblackにして
炎みたいなこんな時
夜中の通りを渡り 飛ぶだけ
炎みたいなこんな時
夜中のコーヒーを濃いblackにして
炎みたいなこんな時
ああ またか 臆病なくせに
1 2 3 無防備なわけは
恥ずかしがりやでシャイ
そんな自分が嫌だってこと
また誰かがワインをこぼすtable
甘く薫る煙り
何度も馬鹿つみかさねたから
もうひとつくらいはいい
back to back
臆病なくせに un deux troi
無茶をする訳は
恥ずかしがりやでシャイ
そんな自分が嫌だってこと
夜中のコーヒーを濃いblackにして
炎みたいなこんな時
夜中の通りを渡り 飛ぶだけ
炎みたいなこんな時
夜中のコーヒーを濃いblackにして
炎みたいなこんな時
ああ またか 臆病なくせに
1 2 3 無防備なわけは
恥ずかしがりやでシャイ
そんな自分が嫌だってこと
進め 進め 進めいめい迷いながらも進め
2001年12月3日 動けばいいのに
行きたいところはもうひとつもないの?
今のあなたがそれがなりたかった自分?
もし本当にそうならそこで待つべきだよ
人は会うべき人にしか会わない
だから いつでも
自分が一番行きたい場所にいくんだよ
そこに恋人はかならずやってくる
それは物理的な場所かもしれないし
仕事かもしれないし
趣味かもしれない
そう考えれば可能性は限りない
(もっと高く)
でも そこに行かない限り
会えない人がいるんだ
(もっと遠くへ)
行きたいところはもうひとつもないの?
今のあなたがそれがなりたかった自分?
もし本当にそうならそこで待つべきだよ
人は会うべき人にしか会わない
だから いつでも
自分が一番行きたい場所にいくんだよ
そこに恋人はかならずやってくる
それは物理的な場所かもしれないし
仕事かもしれないし
趣味かもしれない
そう考えれば可能性は限りない
(もっと高く)
でも そこに行かない限り
会えない人がいるんだ
(もっと遠くへ)
ヨハネ 断章 最終回
2001年12月2日 イエスが死んでから、
私は彼の母の世話をまかされた。
その後、方々へ旅し、
7聖堂を建てたが、
ローマに連行され、
油の煮えたぎる釜に投じられるという拷問を受けた。
もちろん今も胸から下はやけどの跡が残っている。
今は、ここパトモス島で静養している。
いつまたローマの迫害を受けるとも知れない。
私にはやり残したことがある。
これから、それが始まる。
事実を書くのではない。
私の願いを書くのだ。
福音書の初めのくだりよりもそれは詩的象徴であふれるだろう。
「初めに言があった。」「この言に命があった。」
福音書の冒頭で私はこの世のはじめを書いた。
しかし、これから残す書物はこの世の終わりと繰り返し。
キリストの最後の勝利は書簡で慣れたおためごかしだ。
終わりは始まり。
どうか、人間の高みへの熱狂が
数少なくとも消えぬことのないように。
私は彼の母の世話をまかされた。
その後、方々へ旅し、
7聖堂を建てたが、
ローマに連行され、
油の煮えたぎる釜に投じられるという拷問を受けた。
もちろん今も胸から下はやけどの跡が残っている。
今は、ここパトモス島で静養している。
いつまたローマの迫害を受けるとも知れない。
私にはやり残したことがある。
これから、それが始まる。
事実を書くのではない。
私の願いを書くのだ。
福音書の初めのくだりよりもそれは詩的象徴であふれるだろう。
「初めに言があった。」「この言に命があった。」
福音書の冒頭で私はこの世のはじめを書いた。
しかし、これから残す書物はこの世の終わりと繰り返し。
キリストの最後の勝利は書簡で慣れたおためごかしだ。
終わりは始まり。
どうか、人間の高みへの熱狂が
数少なくとも消えぬことのないように。
ヨハネ 断章 その14
2001年12月1日 ユダ。
私と似ていながら非なる者。
私と同じ絶望を抱きながら、それを行動に起こした者。
それを通過せざるを得なかった者。
私たちは、お互いを常に意識していた。
話す機会は少なかったが、相転移して同じ事をしても
おかしくないと感じ取っていた。
イエスが死を預言ではなく現実の一部として生きたように、
ユダもまた裏切りは予感ではなく現実の一部にひそんでいた。
イエスが夕食の際、ユダの裏切りについて語ったとき、
私はイエスの隣にいて驚きとは裏腹に納得していた。
彼がそう定められていなければ、
裏切ったのは私かもしれない。
ゲッセマネの園で一夜
イエスが近づく死の杯を取り除いてくれるよう
主に嘆願しているとき、
ユダもまた裏切りの杯を取り除いてくれるよう
ひとり苦悩したのではないか?
「すべてはみこころのままに」
あらゆる瞬間あらゆる関係は大いなる偶然と
こまやかな意図とで編まれてできていて、
あらゆるできごとはただ起こる。
当然のように。
当事者の意志とは関係なく。
彼がイエスに接吻することで裏切ったことを
私は福音書には記述しなかった。
それは、彼の名誉のためだ。
彼も又イエスを愛していたことを
痛いほど知っていたからだ。
そして、彼は自ら命を絶った。
だが、彼は今も私の中で息づいている。
私と似ていながら非なる者。
私と同じ絶望を抱きながら、それを行動に起こした者。
それを通過せざるを得なかった者。
私たちは、お互いを常に意識していた。
話す機会は少なかったが、相転移して同じ事をしても
おかしくないと感じ取っていた。
イエスが死を預言ではなく現実の一部として生きたように、
ユダもまた裏切りは予感ではなく現実の一部にひそんでいた。
イエスが夕食の際、ユダの裏切りについて語ったとき、
私はイエスの隣にいて驚きとは裏腹に納得していた。
彼がそう定められていなければ、
裏切ったのは私かもしれない。
ゲッセマネの園で一夜
イエスが近づく死の杯を取り除いてくれるよう
主に嘆願しているとき、
ユダもまた裏切りの杯を取り除いてくれるよう
ひとり苦悩したのではないか?
「すべてはみこころのままに」
あらゆる瞬間あらゆる関係は大いなる偶然と
こまやかな意図とで編まれてできていて、
あらゆるできごとはただ起こる。
当然のように。
当事者の意志とは関係なく。
彼がイエスに接吻することで裏切ったことを
私は福音書には記述しなかった。
それは、彼の名誉のためだ。
彼も又イエスを愛していたことを
痛いほど知っていたからだ。
そして、彼は自ら命を絶った。
だが、彼は今も私の中で息づいている。
ヨハネ 断章 その12
2001年11月30日 イエスと私が距離を縮めるにつれて、
兄は宗教・信仰に対する研究に熱心になった。
それまで馬鹿にしていた学問に連日打ちこんだ。
読み書きさえ教わることを拒んでいた兄のその姿は、
初めて、私に優越感を与えた。
兄は必死で熱心さをアピールした。
だが、イエスと出会い、高みの存在を感じるのではなく、
知ってしまった私は、優越感にひたることさえ許されなかった。
彼のあがきもまた切なく思えた。
私は、兄に対して無関心になっていった。
それは、赦しに似ていたかもしれない。
兄は宗教・信仰に対する研究に熱心になった。
それまで馬鹿にしていた学問に連日打ちこんだ。
読み書きさえ教わることを拒んでいた兄のその姿は、
初めて、私に優越感を与えた。
兄は必死で熱心さをアピールした。
だが、イエスと出会い、高みの存在を感じるのではなく、
知ってしまった私は、優越感にひたることさえ許されなかった。
彼のあがきもまた切なく思えた。
私は、兄に対して無関心になっていった。
それは、赦しに似ていたかもしれない。
ヨハネ 断章 その11
2001年11月29日 重なる次元、私はその一部を垣間見た。
高い山、それは天へ、次の次元へのぼる道だ。
そこで、イエスは、モーセとエリヤと話をしていた。
彼らこそがモーセとエリヤすなわち預言者ヨハネなのだと
理解できた道理はない。
ただ頭に浮かんだのだ。
私や兄、シモン・ペテロの前でふたつの次元が通っていた。
そして、キリストの主の声。
だが、私がそのとき祈っていたのは、
もっと高みへ連れていってくれ!
そんなことだった。
近づけそうで、近づけない。
じりじりするような高みへの熱狂は、
イエスも平生感じていたようだった。
だが、彼は分を弁えていた。
自分が触れることのできる次元や現象を把握していた。
しかし、ときおり私と話す折りなど、
彼の目は高みをさまようのだった。
高い山、それは天へ、次の次元へのぼる道だ。
そこで、イエスは、モーセとエリヤと話をしていた。
彼らこそがモーセとエリヤすなわち預言者ヨハネなのだと
理解できた道理はない。
ただ頭に浮かんだのだ。
私や兄、シモン・ペテロの前でふたつの次元が通っていた。
そして、キリストの主の声。
だが、私がそのとき祈っていたのは、
もっと高みへ連れていってくれ!
そんなことだった。
近づけそうで、近づけない。
じりじりするような高みへの熱狂は、
イエスも平生感じていたようだった。
だが、彼は分を弁えていた。
自分が触れることのできる次元や現象を把握していた。
しかし、ときおり私と話す折りなど、
彼の目は高みをさまようのだった。
ヨハネ 断章 その10
2001年11月28日 イエスは、私のことをよく「おくれてきた預言者」とか
「預言者のなりそこない」と呼んだ。
彼とはよくこの世界の神秘について語ったものだった。
それは、日常のことから、
私たちの目に見えない世界のことまで。
私は、母の姉が代々所蔵している書物をつかって
母から読み書きを学んでいた。
もちろんそれ以外のことも。
そのことがイエスに従うきっかけをあたえたのは
言うまでもない。
だが、イエスは違うと言った。
「キミは無意識のうちにこの世の創造主の本質を
感じつかみ取っている。
私なんか貧乏神をひいたもんさ。
これから私に起こる出来事を見ればね、
分かると思うよ。
こんなちからなんになるというんだろう。
彼らは誰でもよかったはずなんだ。
日常から飛べるまやかしをみせてくれる者が
いればね。
でも、そんな彼らの苦しみや悲しみが私には
分かるから。
私は、自ら命を絶つようなことはしないのさ。
キミなら分かってくれるだろうか。
バプテスマのヨハネのように。」
それから、こう付け加えた。
「いや、余計なことを言ったな。」
今は彼が言った意味が分かる。
イエスに贖罪の死を授けた神は、私の思う創造主とは
次元が異なる。
重なる次元のひとつの現象として
イエスが存在したのだ。キリストとして。
「預言者のなりそこない」と呼んだ。
彼とはよくこの世界の神秘について語ったものだった。
それは、日常のことから、
私たちの目に見えない世界のことまで。
私は、母の姉が代々所蔵している書物をつかって
母から読み書きを学んでいた。
もちろんそれ以外のことも。
そのことがイエスに従うきっかけをあたえたのは
言うまでもない。
だが、イエスは違うと言った。
「キミは無意識のうちにこの世の創造主の本質を
感じつかみ取っている。
私なんか貧乏神をひいたもんさ。
これから私に起こる出来事を見ればね、
分かると思うよ。
こんなちからなんになるというんだろう。
彼らは誰でもよかったはずなんだ。
日常から飛べるまやかしをみせてくれる者が
いればね。
でも、そんな彼らの苦しみや悲しみが私には
分かるから。
私は、自ら命を絶つようなことはしないのさ。
キミなら分かってくれるだろうか。
バプテスマのヨハネのように。」
それから、こう付け加えた。
「いや、余計なことを言ったな。」
今は彼が言った意味が分かる。
イエスに贖罪の死を授けた神は、私の思う創造主とは
次元が異なる。
重なる次元のひとつの現象として
イエスが存在したのだ。キリストとして。
インターミッションその5 安吾のさきどる引き篭もりの心境
2001年11月27日 凡そ退屈なるものの正体を見極めてやろうと、
そんな大それた魂胆で、
私はこの部屋に閉じ籠ったわけではないでいのです。
それとは全く反対に、
凡そ憂鬱なるものを忘却の淵へ沈め落してしまおうと、
それは確かに希望と幸福に燃えて
此の旅に発足したのでした。
それも所詮単なる決心ではありますが―
とにかく其の心掛けは有ったのです。
勿論初めのうちは、時々は散歩に出かける心持にも
なったものですが、
その気持ちでさて立ち上がってみますに、
何か一つ心に満ち足りない感じがして、
ついうかうかと窓から外ばかり眺めているうちに、
ガッカリして寝倒れてしまい、
もう天井にジッっと空洞(うつろ)な眼を向けて、
放心してしまうのです。
そんな風にしていて、決して愉快であるわけではないのですが、
今ではあきらめて、
まるで外出する気持ちにもならないのです。
それは確かに退屈千万で耐え難いのでありますが、
たまさかに外へ出てみる気持ちにもなると、
その気持ちになっただけが尚更に負担で、
全くガッカリしてしまうのです。
そんな大それた魂胆で、
私はこの部屋に閉じ籠ったわけではないでいのです。
それとは全く反対に、
凡そ憂鬱なるものを忘却の淵へ沈め落してしまおうと、
それは確かに希望と幸福に燃えて
此の旅に発足したのでした。
それも所詮単なる決心ではありますが―
とにかく其の心掛けは有ったのです。
勿論初めのうちは、時々は散歩に出かける心持にも
なったものですが、
その気持ちでさて立ち上がってみますに、
何か一つ心に満ち足りない感じがして、
ついうかうかと窓から外ばかり眺めているうちに、
ガッカリして寝倒れてしまい、
もう天井にジッっと空洞(うつろ)な眼を向けて、
放心してしまうのです。
そんな風にしていて、決して愉快であるわけではないのですが、
今ではあきらめて、
まるで外出する気持ちにもならないのです。
それは確かに退屈千万で耐え難いのでありますが、
たまさかに外へ出てみる気持ちにもなると、
その気持ちになっただけが尚更に負担で、
全くガッカリしてしまうのです。
インターミッションその4 山田太一作品口調
2001年11月26日家族や友人達と
並木道を歩くように曲がり角を曲がるように
僕らはどこへいくのだろう?
と何度も口に出してみたり、
熱心に考え、深夜に恋人のことを想って
誰かのために祈るような
そんな気にもなるのか
なんて考えたりするけど
並木道を歩くように曲がり角を曲がるように
僕らはどこへいくのだろう?
と何度も口に出してみたり、
熱心に考え、深夜に恋人のことを想って
誰かのために祈るような
そんな気にもなるのか
なんて考えたりするけど
インターミッションその3 少女と思春期の男の子の会話
2001年11月25日どうして生活は豊かにみえるのに自分を傷つけたり、
他人を傷つけたりするの?
多分 みんな理由は同じだと思う。
小さい時はみんな夢や希望を持ってて
世界は単純なんだけど
大きくなるにつれて混乱していくんだ
世の中や人が
わからなくなっていくんだ
他人を傷つけたりするの?
多分 みんな理由は同じだと思う。
小さい時はみんな夢や希望を持ってて
世界は単純なんだけど
大きくなるにつれて混乱していくんだ
世の中や人が
わからなくなっていくんだ
ヨハネ 断章 その9
2001年11月24日 ただ、まさしく奇跡のように全てが調和した光景を
一度目にしたことがある。
彼が海の上を歩いてきたときだ。
朝日が、雲を、海を、彼を照らし、
そこには無限の色彩が満ちているようだった。
希望に満ちた色彩の中で彼の瞳だけが
それを引き立てるように哀しみの色彩を帯びて
いるのをただ見つめていた。
私の心は言葉にできないせつなさがこみあげる
ばかりだった。
一度目にしたことがある。
彼が海の上を歩いてきたときだ。
朝日が、雲を、海を、彼を照らし、
そこには無限の色彩が満ちているようだった。
希望に満ちた色彩の中で彼の瞳だけが
それを引き立てるように哀しみの色彩を帯びて
いるのをただ見つめていた。
私の心は言葉にできないせつなさがこみあげる
ばかりだった。
ヨハネ 断章 その8
2001年11月23日 彼がどんな基準で弟子を選んでいるのか
分からない。
また、彼らが何故彼を選び心酔するのか
わからない。
「だから、キミを連れてきたんだよ。」
そういうイエスの言葉の意味を理解するのは
彼が姿を消してずっと後のことだ。
そう言われた頃には、既に、私はもう何度も
彼の引き起こすこの世のものとは思われない
「奇跡」を目にしていた。
だが、それがなんだというのだろう。
なんでも起こりうるのだ、この世界は。
何かが起こる限り、それはこの世界にとって
必要だった、それだけのことだ。
分からない。
また、彼らが何故彼を選び心酔するのか
わからない。
「だから、キミを連れてきたんだよ。」
そういうイエスの言葉の意味を理解するのは
彼が姿を消してずっと後のことだ。
そう言われた頃には、既に、私はもう何度も
彼の引き起こすこの世のものとは思われない
「奇跡」を目にしていた。
だが、それがなんだというのだろう。
なんでも起こりうるのだ、この世界は。
何かが起こる限り、それはこの世界にとって
必要だった、それだけのことだ。
ヨハネ 断章 その7
2001年11月22日 貧しい旅の一行が、救世主とその弟子だと
知ると兄の態度は豹変した。
野望に満ちたその表情が、以後、熱心な信者
のそれに変貌していく様は、やはり私の冷笑
を買った。
後に、私たち兄弟はその激しい性格から
「雷の子ら」と呼ばれ、イエスに最も近い使徒
と周りから呼ばれたが、全くそれはレッテルの
貼り間違いだ。
方向性が逆だというのに、そんな風に一緒くた
にされるのは不愉快極まりない。
いや、血のつながりはそういうものなのだ。
全く違う人生を生きていてもどこか似通っている。
それにいらだち、あきらめる。
知ると兄の態度は豹変した。
野望に満ちたその表情が、以後、熱心な信者
のそれに変貌していく様は、やはり私の冷笑
を買った。
後に、私たち兄弟はその激しい性格から
「雷の子ら」と呼ばれ、イエスに最も近い使徒
と周りから呼ばれたが、全くそれはレッテルの
貼り間違いだ。
方向性が逆だというのに、そんな風に一緒くた
にされるのは不愉快極まりない。
いや、血のつながりはそういうものなのだ。
全く違う人生を生きていてもどこか似通っている。
それにいらだち、あきらめる。
ヨハネ 断章 その6
2001年11月21日 やがて出て行くであろう一行のひとりの姿が
私の心に映えたときのことを私は良く覚えている。
「キミは、ヨハネとは似ていないね。
おにいさんのヤコブとは正反対だし。」
漁の網を編み直す私の耳にふと囁かれたイエスの
言葉に私の動きはぎくりと止まった。
「たしかに兄の性格とは違うと思うけれど、
誰が僕と似てないって?」
「ヨハネだよ。キミと同じ名前で有名な、
最後の予言者。キミは知らないかい?」
もちろん知っていた。
だが、洗礼者ヨハネと私を比べる人物がどこにいるだろう?
これが、救世主と騒がれているイエスなのだ、
悟った途端いぶかしい気持ちに襲われた。
「今度は人をつってみないかな?
網でなく言葉で。」
何を彼は言っているのだろう?
「キミのような人をまっていたんだ。
きっと僕と近しい距離で主と遊べるよ。」
私の心に映えたときのことを私は良く覚えている。
「キミは、ヨハネとは似ていないね。
おにいさんのヤコブとは正反対だし。」
漁の網を編み直す私の耳にふと囁かれたイエスの
言葉に私の動きはぎくりと止まった。
「たしかに兄の性格とは違うと思うけれど、
誰が僕と似てないって?」
「ヨハネだよ。キミと同じ名前で有名な、
最後の予言者。キミは知らないかい?」
もちろん知っていた。
だが、洗礼者ヨハネと私を比べる人物がどこにいるだろう?
これが、救世主と騒がれているイエスなのだ、
悟った途端いぶかしい気持ちに襲われた。
「今度は人をつってみないかな?
網でなく言葉で。」
何を彼は言っているのだろう?
「キミのような人をまっていたんだ。
きっと僕と近しい距離で主と遊べるよ。」
インターミッションその2 ロボトミーにして僕を
2001年11月20日 今日と昨日の識別も最早つかない混乱が続いた。
僕は時々上を見上げて深くじっと考えてみる。
すると僕の考えが、急に僕の額から煙のように
逃げ出していく、
僕は空洞(からっぽ)のなかに、憔悴した僕の頬を、
そればかり目瞼一杯に移してしまう。
それでいて、僕の毎日は不思議に鋭く緊張していた。
誰人の意志が又何故にこの不思議な緊張を
かくまで僕に強うるのか、
それを僕は知ることが出来なかった。
知りうることは、僕の意志ではこの緊張を
どうすることも出来はしないということばかり、
僕はただ、日毎に強く張り切ってゆく、
不思議に休むときもない振幅を感じ続けてばかりいた。
やがて或日、その緊張に極点が来て止む無く
緊張それ自身破裂せしめる時がある、
そのとき僕はどう成って何処へ行くのか、
それも僕には分からない。
僕は毎日怒ったような、
妙に切迫した怖い顔を結んで、
極く希に、ふとしたはずみでしか
笑い出すことが出来なかった。
僕は時々上を見上げて深くじっと考えてみる。
すると僕の考えが、急に僕の額から煙のように
逃げ出していく、
僕は空洞(からっぽ)のなかに、憔悴した僕の頬を、
そればかり目瞼一杯に移してしまう。
それでいて、僕の毎日は不思議に鋭く緊張していた。
誰人の意志が又何故にこの不思議な緊張を
かくまで僕に強うるのか、
それを僕は知ることが出来なかった。
知りうることは、僕の意志ではこの緊張を
どうすることも出来はしないということばかり、
僕はただ、日毎に強く張り切ってゆく、
不思議に休むときもない振幅を感じ続けてばかりいた。
やがて或日、その緊張に極点が来て止む無く
緊張それ自身破裂せしめる時がある、
そのとき僕はどう成って何処へ行くのか、
それも僕には分からない。
僕は毎日怒ったような、
妙に切迫した怖い顔を結んで、
極く希に、ふとしたはずみでしか
笑い出すことが出来なかった。
インターミッションその1 深夜の俺様
2001年11月19日 脳味噌は―
脳味噌という代物を余はひどく怖れるよ―
脳味噌は、氷りついて動かないのだ。
そこで俺は様様な手段を講じてぜひとも
脳味噌を動かそうと勉めるのだ。
俺の目はいみじくも光り輝き、
額は痩せくたびれて、
頭は唸りを生じ、
俺は―
ほがらかに気狂いになりそうな気がするのだ。
俺の唇は酒を一滴も呑まぬのに
呂律も廻らなくなって、ワハ、オモチロイヨ
などと言うのだ。
こんな風にして、俺の身体は何かガラスのような
脆い物質から出来ていて、
どこかしらん一寸でも動かしたが最後
ピチピチと音がしてわれちまうような気になる。
舌を出してさえゼンマイがくずれそうな
気がするから(ああ、舌が出してみたいねえ)
笑いたくてたまらないのだが―
俺は断じて笑わんよ。
脳味噌という代物を余はひどく怖れるよ―
脳味噌は、氷りついて動かないのだ。
そこで俺は様様な手段を講じてぜひとも
脳味噌を動かそうと勉めるのだ。
俺の目はいみじくも光り輝き、
額は痩せくたびれて、
頭は唸りを生じ、
俺は―
ほがらかに気狂いになりそうな気がするのだ。
俺の唇は酒を一滴も呑まぬのに
呂律も廻らなくなって、ワハ、オモチロイヨ
などと言うのだ。
こんな風にして、俺の身体は何かガラスのような
脆い物質から出来ていて、
どこかしらん一寸でも動かしたが最後
ピチピチと音がしてわれちまうような気になる。
舌を出してさえゼンマイがくずれそうな
気がするから(ああ、舌が出してみたいねえ)
笑いたくてたまらないのだが―
俺は断じて笑わんよ。
ヨハネ 断章 その5
2001年11月18日 私たちのゆがんだバランスに一石を投じたのは、
決して豊かとはいえないガリラヤからの3人の
一行だった。
兄は、はじめ露骨にもてなすのを嫌がっていた。
当時、漁が思うとおりにいかないせいも
あったろう。
だが、一行の中の兄弟シモン・ペテロとアンデレが
漁師と知ると、うち解けたようだった。
父はガリラヤの話を聞きたがった。
しかし、私は、全く異なるところでひっかかっていた。
一番年若い青年の目だ。
そこに宿った哀しみは私は打ちのめした。
まるで100年も200年も生きてきたか
のような、疲れと諦めを宿している。
かと思えば、何時間かけてでも相手を説得
するのもいとわないような若く激しい誠実さ
を秘めている。
彼は、イエスと呼ばれていた。
一行の中心的存在のようだった。
決して豊かとはいえないガリラヤからの3人の
一行だった。
兄は、はじめ露骨にもてなすのを嫌がっていた。
当時、漁が思うとおりにいかないせいも
あったろう。
だが、一行の中の兄弟シモン・ペテロとアンデレが
漁師と知ると、うち解けたようだった。
父はガリラヤの話を聞きたがった。
しかし、私は、全く異なるところでひっかかっていた。
一番年若い青年の目だ。
そこに宿った哀しみは私は打ちのめした。
まるで100年も200年も生きてきたか
のような、疲れと諦めを宿している。
かと思えば、何時間かけてでも相手を説得
するのもいとわないような若く激しい誠実さ
を秘めている。
彼は、イエスと呼ばれていた。
一行の中心的存在のようだった。
ヨハネ 断章 その4
2001年11月17日 父ゼベダイは、漁師だったが、子供のような人だった。
母サロメは、また、少女のようなはかない人で
私が生まれてすぐ亡くなった。
以後、残された父と兄、私は、母の死の影で
バランスを失った。
子供のように主張する父と
父のように君臨する兄。
私は、母に似ていると言われた。
漁師として生活せざるをえなかったが、
水飛沫の美しさに哀しみを感じ涙する
そんな一面を持っていた。
それを兄は、軟弱のひとことでかたづけた。
人間に必要なのは強い明日への意志、
そしてそれに必要な忍耐力だと何度も唱えた。
兄の激しさは、私の冷笑をかったにすぎない。
彼の空回りは私の笑いだねだった。
ただ、ひとへの憎しみは
そのままみずからにかえってくるものだ。
私は、自身を深く、深く、愛し憎んでいた。
母サロメは、また、少女のようなはかない人で
私が生まれてすぐ亡くなった。
以後、残された父と兄、私は、母の死の影で
バランスを失った。
子供のように主張する父と
父のように君臨する兄。
私は、母に似ていると言われた。
漁師として生活せざるをえなかったが、
水飛沫の美しさに哀しみを感じ涙する
そんな一面を持っていた。
それを兄は、軟弱のひとことでかたづけた。
人間に必要なのは強い明日への意志、
そしてそれに必要な忍耐力だと何度も唱えた。
兄の激しさは、私の冷笑をかったにすぎない。
彼の空回りは私の笑いだねだった。
ただ、ひとへの憎しみは
そのままみずからにかえってくるものだ。
私は、自身を深く、深く、愛し憎んでいた。