いきなり電話が鳴ったので
ぼくは目覚めてしまったのだ

夢の中でぼくは
一編の詩集を読んでいたのだが
その中の一編がすばらしかった
思わず
すばらしい とぼくは呟き
夢なぞとは夢にも思っていなかった

だが 目覚めたとたんに
ぼくは忘れてしまったのだ
どんな詩であったか
だれの詩であったかも
みんな なにもかも
ぼくは忘れてしまったのだ

電話の向こうでは
友だちが言っている
もしもし もしもし
今日 会おうよ
一時に?
二時に?
三時に? もしもし

一時に 二時に 三時に
ぼくは友だちに会うだろう。

そしてぼくらは語るだろう
夢のことでなく
現実のぼくらの生活について
ぼくらの今日と
明日の不安について
とめどもなく
ぼくらは
語らねばならぬだろう

そして 語ってもなお
ぼくは思い出せないだろう
あの美しい

いつまでも
ぼくは思い出せないだろう
そして書くこともできないだろう

ぼくは友だちに言う
すばらしいことはみんな夢の中で起こった
ぼくらはそれを思い出せないで暮らしている
一言の詩
ぼくらの苦しみでは創り出せない詩
それを思い出そうとしてぼくは歩いている
ぼくの 沈黙を許したまえ と


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