許して、僕はこれより大きな声で喋れない。
 あなたが、そう、僕の語りかけてるあなたが、いつ、僕の声をきいてくれるのか、僕には分からない。
 いや、そもそも、あなたは、僕の声がきこえるのだろうか?
 僕の名前は、とぶ。
 お願いだから、どんなに離れていても、あなたの耳を僕の口にぴったりくっつけていて。いまもそうやって。あるいは、ずっとそうしてほしい。でないと、僕は、あなたに理解してもらえない。で、たとえあなたが頼みをきいてくれないとしても、沈黙というやつがたっぷり残っているだろうから、あなたには、そいつを自分で補ってもらわなくては。僕の声が故障しているこの場所では、あなたの声が必要なんだよ。
 この弱点は、とぶがどんなふうに住んでいるのかということから、説明がつくのかもしれない。つまり、とぶは、彼が覚えている限りでは、全く空っぽの建物に住んでいて、そこでは、声に出されたコトバは、みんな、ほとんど終わることのないコダマになるんだ。

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