玉井さん その1

2001年12月12日
 私が通勤するとき、ひとりの部屋から出て、
 これから職場の人に出会う準備をする瞬間がある。
 ひとつは、多摩川を電車が通りすぎる時。
 もうひとつは、玉井さんだ。
 玉井さんは、近所づきあいがあるわけでもなく、
 ましてや知人でもないが、
 毎朝、互いに挨拶を交わした。
 「おはようございます。」
 「いってらっしゃい。」
 ただ、それだけなのだが、私にとっては貴重な時間だった。
 訊いたことのないそのおばあちゃんの名前を知っているのは、
 彼女がいつも手にしているちりとりに「玉井」と書いてあるからだ。

 なかなかお洒落なおばあちゃんで、古い服だけれど
 大事にしているのが伝わってきた。
 お化粧をしているわけでもないのに、
 こざっぱりしている綺麗な顔立ちも品があるように思われた。

 「玉井さん」はその名前とイメージが一致して、
 どんどん私を想像の世界に連れていった。
 年金生活で慎ましく暮らしているのかしら。
 だんなさんとふたり。
 ここらのノラもなついているようだし、
 猫を飼ってるかもしれない。
 近所のこころないゴミ捨てをする人を庇うかのように
 自らゴミ置き場を掃除している。
 こんな私にも挨拶してくれる。
 やさしいおばあちゃんなんだわ。

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