脳味噌は―
 脳味噌という代物を余はひどく怖れるよ― 
 脳味噌は、氷りついて動かないのだ。
 そこで俺は様様な手段を講じてぜひとも
 脳味噌を動かそうと勉めるのだ。
 俺の目はいみじくも光り輝き、
 額は痩せくたびれて、
 頭は唸りを生じ、
 俺は―
 ほがらかに気狂いになりそうな気がするのだ。
 俺の唇は酒を一滴も呑まぬのに
 呂律も廻らなくなって、ワハ、オモチロイヨ 
 などと言うのだ。
 こんな風にして、俺の身体は何かガラスのような
脆い物質から出来ていて、
 どこかしらん一寸でも動かしたが最後
 ピチピチと音がしてわれちまうような気になる。
 舌を出してさえゼンマイがくずれそうな
気がするから(ああ、舌が出してみたいねえ)
 笑いたくてたまらないのだが―
 俺は断じて笑わんよ。

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