「なぜあんな夢を見たのかしら?
 抱いて。ふるえが止まらないの。」
「どんな夢か覚えてる?」
「私たち、危険な道を横断するはめになって
 一緒に渡るために手を握るよう頼んだの。
 でも、ダメだった。
 
 私たちの手が見えないの。
 腕の部分が見えないのよ。

 しかも、地面は柔らかい砂。
 それに足を取られて、
 もう道路のずっと先にいて、
 どうしても行けないの。

 ねえ、
 混沌とした世界に生きているのね。」
「僕たち?」
「いいえ、人間みんなよ。」
「混沌って?」
「不安とか、恐怖とか、そういう状態のことよ。
 もしかして私たち…
 少しずつ破滅へ近づいているのかもしれない…」
「そうかもな。
 もう手遅れかもしれない。
 でも、考えても誰も口にしない。」
「大事なものを失ってない?」
「人間が?」
「私たちよ」
「今は抱き合ってる。
 真夜中に。
 世界のほんの片隅で。
 心がすれ違ったまま。」
「それでも、信じたいの?
 私を愛してるって。」
「心からね。
 でも、大げさに言うと愛が逃げてしまう。
 僕は、君を、愛してる。
 不完全で、わがままな形だけど。」

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